『 The Secret Garden   ― (2) ―  』

 

 

  

 

 

青い瞳に亜麻色の髪。  見慣れていたその姿 ・・・ もう一度だけでいい、会いたいと

焦がれていたその人 ・・・ いや その姿が 目の前で笑っている。

フランソワーズは 立ち尽くし ただ ただ その姿を見つめていた。

「  ・・・・・・・  」

「 どうした?  ファンションが遅れるなんて珍しいねって皆で言ってたんだ。 」

さあ ・・・ と 目の前に立つ青年は手を差し伸べる。

「 ・・ ・・・・・  」  声が でない。  指一本も動かない。

 

    お  お兄さん ・・・?   い いえ ちがうわ ・・・

    お兄さんが  ・・・ こんなに若いはず、ないもの。

 

    見かけはそっくりだけど  ― けど  けど ・・・ ち が  う ・・・?

 

 ぱき ・・・  足の下で小枝が鳴った。

その微かな音でフランソワーズはふっと我に帰り、目の前に立つ青年を <見た>。

003の眼で <見た>。

 

    ・・・・!   こ これは ・・・・  < 見えない > ・・・!

 

003の能力は現実をありのままに映し出す。 そこには幻覚などはありえない。

冷徹なメカが 忠実に物体をスキャンするだけなのだ。

その能力を駆使して  見えない  ということは ―  対象物の非存在を意味する。

  要するに  そんなモンはないんだ、まやかしだってことだ。

 

    ・・・ な〜るほど ・・・ なかなか演出が上手ねえ・・・

 

す − ・・・ とのぼせ上がっていたアタマが冷えた。

ほんの一瞬だけ彼女は青年の笑顔から視線を外し瞬きをした。 

そして  満面の笑顔で目の前の人物に応えたのだ。

「 ああ ・・・ ごめんなさい、お兄さん。  リハーサルが延びてしまったのよ。 」

「 いや 気にしなくていいさ。  さあ おいで。  皆 待っているよ。 」

「 ・・・ ええ ・・・ 」

 

  ―  キ ィ ・・・・ 

 

枝折戸が風にゆれて微かな音を立てている。

彼女は青年と共に薔薇とサンザシのアーチを抜けて 中庭に入った。

  ― 芝生の綺麗な庭、 ヨーロッパの大きな屋敷によくみる形式だった。

もっとも植え込みなどはあまり手入れをした風ではなく、原型のままの庭樹が多かった。

 

    ふうん ・・・ でもいいカンジ・・・

    幾何学的に整備した庭園よりも 自然のままの方が好きだし。

    

    ・・・ そうよね、ここは一応日本のはず・・・

 

「 いい天気だね  ファンション どうだい? 午後のお茶は外でっていうのは?

 皆もこの光を 楽しみたいだろうし ・・・ 」

青年は木漏れ日を指して目を細めていている。

 

    あら・・・ この仕草 ・・・ 本当にお兄さん そっくり・・・

    ちっちゃい頃 公園で遊んだ時みたいね

 

ちょっぴり涙が滲んできたが そっと指で払って風に飛ばした。

「 う〜〜ん いいわねえ・・・  ねえ、パパとママンを誘ってよ、お兄さん。

 五月の風が 素敵よ・・・って。 」

「 わかったよ。  おや・・・ いいにおいだな・・・・

 お茶の時間のケーキは ・・・ ふんふん ・・・ ママンのお得意だな〜 」

「 あら なあに? ・・・まあ 本当・・・ これってママンのバナナ・シフォン・ケーキ ね? 」

「 ああ そうだな。  うん ちょいと親父たちを呼んでくる ・・・ 」

青年は片手をあげると 身軽く駆け出し中庭を横切っていった。

「 お願いね、 お兄さん。 わたし、ここで待っているから・・・ 」

「 おう ・・・ 」

青年は館の玄関で大きく手を振り 中へと消えた。

そんな <兄> の背中をながめつつフランソワーズはこっそり溜息を吐いた。

 

    ・・・・ ふうん ・・・?

    これがわたしが望んでいる世界 なのかなあ・・・

 

    それにしても。 天下の003も甘く見られたものね。

    この程度の幻覚で惑わすことができると思ったのかしら・・・

     ・・・ ふん ・・・!

    データの解析が不十分だわね。 それとも新米さんなの?

    ミスが多いんじゃない?  ふん ・・・!

    ママンのお得意 は ラズベリーのパイ だったでしょ・・・

 

少々不機嫌になりつつも 彼女は庭全体を <見る>

「 ・・・ ふうん?  ここは普通の庭だわねえ。  人工物は・・・ え〜と? 見あたらない・・

 きゃ ・・・ イヤだあ〜〜 なんかの幼虫、みちゃった・・・ 」

フランソワーズは顰めッ面をして あわててスイッチを 切った。

「 ヤダ〜〜 ・・・でも 昆虫がいるってことは ・・・ ここが ほとんど自然のまま、ということね。

 問題なのは あの屋敷の中、なのかしら。  」

彼女は改めて 奥に立つ古風は洋館を見つめた。

超視覚のレンジを広げ 精度をアップしてゆく。  洋館の壁が次第に透けて中が見えてくる。

「 ・・・  普通の家 みたい ・・・  ?? 」

 

     ―   え ・・・ ??

 

一瞬 彼女は目を閉じ、そしてもう一度、今度は一気に最高レベルにして < 見た >。

003の超視覚が映し出した光景は ・・・

 

     こ・・・れ ・・・ これって ・・・ だってこれ。 

 

        ウチの、岬の家の リビング だわ??

 

もしかしたら。 パリの古びたアパルトマンの部屋か幼い頃家族で暮した居間が見えるのかも・・・

と彼女は ほんの少しだけ期待していた。

しかし 冷徹なメカが映し出した映像は  つい今朝方彼女自身がざっと片付けてきた場所。

今現在 博士やジョーと共に暮している岬の洋館の リビング だったのだ。

 

     な なんなの・・・??  どうして判るの?

     あ  ジョー?  もしかして ジョーの記憶を読んだ??

     ジョーは ・・・  屋敷の中に入ってしまった・・・のかしら ?

 

それ以上 見る ことはできなかった。

恐らくシールドされているのだろう、003の視覚は跳ね返されてしまう。

「 ・・・ これ以上のサービスはいたしません、ってこと?

 ふん ・・・ じゃあ こっちの庭はどうなのよ? 」

 

     ―  この庭には  ・・・・  誰もいないわね。

 

フランソワーズはほんの少し顔の向きを変えただけで、再度庭中を見回していた。

能力のレンジを最大限に広げ、仔細に観察した。

「 ふ〜ん ・・・ なんかわかってきたわね ・・・

 ここは多分  ―  きっと < 見たいモノが見られる > 場所 なんだわ。 」

一歩退いて木漏れ日の中から見やれば 華やかな初夏の陽射しのもと、

穏やかな光景がひろがっている。

木々の間から 白い彫像がみえた。  先ほどは確かになかった。

そして 館の外れからは噴水のある池が見え隠れしている。

つい今しがた立ち入った日本の洋風庭園形式な庭にはまったく存在しなかったのだが・・・

「 ・・・ ふんふん ・・・< 舞台 > はいろいろに変化して見えるってことね。

 場所自体に細工しているんじゃないわ。  

 わたし の心にある風景を読み取って投影しているらしいわ ・・・ 

 どういう仕組みなのかはわからないけれど  ふうん ・・・ 」

彼女は視線を落とした。  あら ・・・ とう風情で屈みこむ。

 ― と  足音がして先ほどの青年が早足でやってきた。

 

「 お〜い・・・ファンション。  外でお茶、 オッケーだとさ。 」

「 ・・・ お兄さん 」

フランソワーズは ゆっくりと顔をあげる。

「 パパもママンも 賛成してくれたよ。  準備、オレたちやってしまおう。 」

「 ええ よくってよ。  ねえ お兄さん ・・・ ほら もう咲いているのね 」

「 ―  え? 」

彼女は足元の植物を 数本摘み取って見せた。

「 ・・・  ああ ハコベか。 雑草だけどなかなかキレイだよな。 」

「 そうね。 

「 え〜と。  ああ あっちの奥庭がいいか・・・  な? 」

「 ・・・ そうね。 気持ちがいいわ、きっと。 」

「 おう ・・・ じゃあ お茶道具のセットをしよう。 手伝ってくれ。 」

「 いいわ ・・・・・ 」

フランソワーズは彼とつれだって歩き始めた。  ちらり、と手にした小花を見る。

 

    ・・・ ハコベ なんて パリジャンのお兄さん、知ってるわけないのに。

    これは日本の雑草でしょ。  ・・・わたし、好きだけど ね

 

    奥庭 ですって?  そんなもの どこにあるのよ?

     ―   あ。   あの木戸 ・・・ あそこの向こう ・・・?

 

「 う〜ん ・・・ 本当に気持ちのいい午後だね。  

 あ ほら・・・ やっぱり思った通りだ、あっちの木漏れ日がいい具合だ。 」

青年は手で明るい陽射しを遮りつつ、 < 奥庭 > を眺めている。

「 大きなものはオレが運ぶから ・・・ 食べ物は任せる。 」

「 ええ ・・・ 」

フランソワーズは彼から数歩遅れてついてゆく。

 

        ・・・  キ ・・・・

 

木戸は小さな音とともに ヒトを誘う顔で奥へと開いた。 

  サク サク  ― 青年はひどく無造作に踏み込んでゆく。

「 うん やっぱりいいね!  あ ほら ファン。 ごらんよ、小鳥が巣をかけている ! 」

「 ・・・まあ そう?  

「 こっち来てよく見てみろよ。  瑠璃色のキレイな羽が見えるぞ。 」

兄は 木戸の向こうから手招きをしている。  ― ごく 普通に 当たり前の表情で。

 

   カタリ ・・・  フランソワーズは木戸に手をかけ  立ち止まった。

 

「 お兄さん 」

「 ん?  なんだ、ファンション。 」

「 ねえ お兄さん。  ・・・ ジョーは もう来ている? 今朝 先に行っている、と言ってたけど。 」

フランソワーズは 笑顔で聞いた。 ― ごく 普通に いつもと同じ表情で。

「 ん? ・・・ ああさっき来てたな〜 アイツ、ママンに頼まれてなにか買い物に出たようだぞ。 」

「 ―   そう。 」

ひと言とともに頷き 一瞬目を閉じてから  フランソワーズはぱっと木戸から離れた。

そして 向こう側に立つ青年をまっすぐに睨みつけた。

「 そっちの目的はなんなの!? こうやってヒトを誘い込むのね!? 」

「 ファンション?  お前 ・・・ 何を言っているんだ? 」

「 よく調べたものね。  それに ・・・ 同時進行でアタマの中をスキャンでもしているの? 

 でも それにしてはミスが多かったわね。 」

フランソワーズはクスクス笑い 上着の下からスーパーガンを取り出した。

「 ― これは新手の人間狩り なの? 

「 おいおい ・・・ なんだ、どうしたっていうのかい? 」

「 ここから先 ― 随分上手く構築してあるけど ・・・ BGのテクってわけなの。 」

「 なに言ってるんだ?  ジョーももう帰っているかもしれないぞ

 こっち 来いよ、ファンション。  さあ ・・・ 

青年は木戸に近寄り 手を伸ばしてきた。

「  ・・・ 残念ねえ。  わたしの兄は ジョーのことなんか知らないのよ! 」

フランソワーズは ぱっとスーパーガンを構えた。

「 そちらに連れていった人々を 返すのよ! 」

「 ・・・ グゥ ・・・・・  グググ ・・・  」

< 兄 >と名乗った青年の姿が 突然さらさらとくずれ始めた。  やがて 光る砂のカタマリとなった。

 

   ―  クス クスクス ・・・  やっぱりね やっぱり ・・・ ふふふふ・・・

 

甲高い笑い声がそちこちから響いてくる。

「 な ・・・ なんなの ・・!? 」

 

   ―  フフフ ・・・ アナタは お兄さんが好きなのね フフフ フフフ ・・・

   お兄さんのところに帰りたいのね  フフフ  

 

光る砂は 霞のようになり木戸をこえるとフランソワーズに飛び掛ってきた。

 

   ほうら ・・・ 本心を言ったら?  あっち側へゆきたいのでしょう?

   フランソワーズは ジャンが好き 〜〜 血を分けた兄さんが好き〜〜 

 

「 ―  そ そんな こと ・・・ だって お兄さんなのよ、好きで当然でしょう!  」」

 

   クスクスクス ・・・ そうかしら そうかしら・・・・

   ・・・ 本当に愛しているのは  誰なのかな ・・・ クスクスクス ・・・

 

「 !  わ わたしが 今! 愛しているの は   ・・・ ジョー −−−−! 」

 

   バ −−−−− ・・・・・・・!!!!

 

スーパーガンが宙を切り裂き 光る砂のカタマリを狙う。

 

      ・・・・ 本当に望む 世界は ・・・ 木戸の ・・・ 

 

一条の光線を喰らうと ソレは再び細かくなり大気に散り果てた。

 ・・・ きら  きら  きら ・・・  光る砂が 静かに地に落ちる。

「 ・・・ わたし ・・・ お兄さん ・・・ 好きだった  わ ・・・ でも ・・・ 」

さっと彼女は髪を振り 舞い降りていた砂を払った。

「 ・・・ふう ・・・  やっぱり ね。 どうも調子が良すぎるもの・・・ 」

フランソワーズは念のために 木戸の向こう側を仔細に <見た>が ・・・

「 ・・・ なにも見えない。  ここから先は仮想空間なのかしら。 」

 

   キィ。  古びた木戸をしっかりと閉めなおした。

 

「 ・・・ 禁断の地、ということなのね。

 でも ―  ちょっとだけ残念だったわ。   ・・・ お兄さん ・・・ 」

フランソワーズは目を細め 空を見上げた。

ジョーと一緒に 家族でお茶のテーブルを囲めたら。  兄とジョーが仲良く語り合っていたら。

それこそが 彼女の夢のまた夢 ・・・ 見果てぬ夢 ・・・

  ほ ・・・・っとひとつ、吐息を飛ばし。 フランソワーズは踵を返す。

 

「 ―  さあ。  ここからが本番ね。  館の中をゆっくりと拝見しましょう。 」

 

 

    

 

  どうぞ、とその女性はジョーを招いた。

「 ・・・ ・・・・・・ 」

彼はすこしギクシャクと足を出した。

「 お楽になさってね。 いま お茶の仕度をしますから。 」

満面の笑みで彼女は言うと ソファへ案内した。

「 どうぞ ・・・ そちらに雑誌が少しあります、眺めてお待ちになって。 」

「 ・・・ はあ ・・・ 」

ジョーは ゆっくりと腰を降ろした。

「 じゃ ・・・ 急がせますから ちょっとだけお時間をくださいね。 」

彼女はもう一度微笑むと 黒髪を翻しドアから出ていった。

「 ・・・ なんか ・・・ 妙なカンジだよなあ ・・・ 」

ジョーは座り慣れたソファに 少し身構えて座り、改めて部屋中を見回した。 

「 ・・・ これも変わりなし、か。  たしかにここは  」

そう 確かにそこは ギルモア邸のリビング  ― 片付けても片付けても 散らかる! と

年中フランソワーズが小言を言っている あの場所 なのだ。

  ・・・そこに 見知らぬ黒髪の美女が女主人然として <居た> のだ。

「 ― ふうん ・・・ そっちがそう出るのなら ・・・ 乗ってやろうか な。 」

彼は ゆっくりと座りなおすと今朝、自分で片付けた雑誌を取り上げた。

「 どうも こっちのアタマの中を読んでいるらしい な ・・・ 

 というか ・・・ 望んでいること、を探りだして実現してみせる のか? 」

 

    ―  ぼくの <帰りたい場所 > は  ここ なんだ ・・

 

ジョーは見慣れているはずのその部屋を 改めて見回した。

今座っているソファ、 背もたれにはレースのカバーがかかり隅にはクッションが置いてある。

どれもフランソワーズがすこしづつ手作りしてきたものだ。

ソファとソファの間に置いた低い木製のテーブルはジェロニモの作品。

裏山に転がっていた倒木を 上手く組み合わせ温か味のある家具に仕上げてくれた。

「 あ ・・・ この花瓶 ・・・ グレートのお気に入りだったっけ。 

窓のカーテンも季節ごとにちゃんと取り替える。  ・・・ それはジョーの仕事だし。

崖っぷちの屋敷のリビングは ジョーにとって一番馴染みのある、寛げる場所なのだ。

「 ・・・ ああ  そっか。  なんか ・・・ わかったかもな ・・・ うん・・・ 」

ジョーは ほう〜っと大きく溜息を吐く。  

 

   ・・・ ずっと欲しかったモノが ちゃんと ・・・ちゃんとあるじゃないか。

   ぼくは 今までなにを見てたんだ?   どこを見てたのさ・・・!

 

ごつん、と一発自分自身にお見舞いしたい気分だ。 いや それだけじゃ足りる訳もない。

 

   そうさ、 ぼくの帰るべき場所は、 帰りたい場所は  ―  きみと暮すあの家なんだ !

 

ふ ふふふ・・・ 温かい笑みが自然に湧き出てきた。

「 なんか ・・・ お礼を言うべきなのかもしれないね?

 この屋敷はぼく自身が気がつかなかったことまで 目の前に見せてくれるんだから 

う〜ん ・・・ とジョーは一つ伸びをした。 まったく家にいるのと同じ気分になってきた。

 

   ようし。 どう出てくるのか ・・・ ちょっとこれは楽しみだぞ?

 

「 おまたせしましたわね。  さあ ・・・ 美味しいお茶をお持ちしました。 」

カタン ・・・と軽い音がして 先ほどの女性がお茶のワゴンを押して入ってくる。

「 ・・・ どうぞ お気遣いなく。 」

「 特別なことはなにもありませんわ。  ウチのいつものお茶ですの。

 お気に召せばうれしいのですけれど・・・  」

彼女は魅惑の微笑みを浮かべたまま、テーブルの上にお茶の仕度を始めた。

「 ・・・ あ そうだ。  こちらには温室がありますよね?  

 さっき 可愛いお嬢さんに案内してもらったのですが。 」

「 温室 ですか。  」

「 はい。  こちらの庭があまりにも素敵なので 眺めていたら・・・

 小さなお嬢さんが駆けていらして 」

「 ・・・ ああ  あの子にお会いになったのですね。 

 それはよかったですわ。  ・・・ 可愛い子でしたでしょう? 」

「 はい。 こちらのお屋敷のお嬢さんですか? 」

「 ・・・・・ 」

女性はゆっくりとお茶をポットから注ぐ。   いい香りの湯気が部屋に流れてゆく。

大きめのカップに 橙色のお茶が揺れている。

「 どうぞ?   そのお嬢さんは 貴方の将来に関わる女性なのかもしれません。

 いわゆる ・・・ 運命の女性 なのでしょうね。

 この館ではいらした方の望む世界をお見せすることができるのですよ。 」

「 ・・・ え そうなのですか。 」

「 ええ。  ですからそのお嬢さんは 貴方が望む方 ・・・

 そして 貴方がここでご覧になる光景が 貴方の欲してる世界なのです。 」

「 ・・・ ここは ・・・ この屋敷は ・・・ なんなのです? 」

「 この館は 庭の一部でしかありませんの。  

 ええ 私達は皆さんをお待ちしております  ―  あの庭で。 」

女性は窓を向いて 手を庭の方へと差し伸べた。

「 庭 ・・・ とてもキレイな庭ですよね。 

 実はぼく・・・ ずっと憧れていたんです。  門の外から眺めているだけでしたけど。 」

「 まあ そうですの?  入っていらしてちっとも構いませんのに・・・

 そうやって訪ねてくださるかたも いらっしゃいます。 」

「 ・・・ そうなんですか。 」

「 ええ。  そうそう ・・・ 貴方がいらした温室 ね、 

 あれは 庭の奥にある木戸から行けばすぐなんですよ。 」

「 木戸?  さっきはそんなところを通らなかったですが・・・ 」

「 あら それじゃ回り道をなさったのじゃないかしら。

 木戸からだったらすぐですわ。  行ってご覧になります? 

「 あ ・・・ いや ・・・ 」

「 そのお嬢さんが いらっしゃるかもしれません。 」

「 ・・・  え ・・・ 

「 貴方を待っているんじゃないかしら ・・・ 」

「 ・・・ そ そうかな ・・・ 」

ジョーの心がぐらり、と揺れた。

 

    あの子 ・・・ あの子は ・・・ フランだもの。

    フランが ぼくの運命の女性 ( ひと ) ・・・!?

 

「 ええ ええ。 温室の中はご自由にどうぞ。  ああ そろそろ早生の葡萄が美味しい頃です。」

「 あ ・・・ あのお嬢さんもそんなことを言っていました。 」

「 まあ そうですの?  それではお願いします、葡萄をすこし、摘んできてくださいな。 」

女性はにこやかに彼を庭へと誘う。

 

    ・・・ふうん? どうしてもぼくをあの木戸の向こうに誘いたいらしいな

    あの先には ― なにがある?

 

    くっそ〜 ・・・ フランなら見えるかもしれないけど・・・

 

「 それとも。  私がご一緒しましょうか。 ・・・ 素敵な大地の色の瞳ですことね・・ 」

大きな黒い瞳が じっとジョーに注がれる。

「 ・・・・・・・・ 」

ジョーは 迷っている風な様子でじっと女性を見つめていた。

 

 

 

 

  ―  コツン ・・・・

 

フランソワーズは 窓の側に寄って改めて中を覗く。

超視覚 でキャッチする映像には怪しい影はない。

「 ・・・ ふうん ・・・ 何回 <見て> も ここはウチのリビングだわねえ・・・

 普通に眺めてみようかしら。 」

彼女はスイッチをオフにして ごく普通の視覚を使った。

「 うん?  あ !  あれは ・・・  え グレート??? 」

屋敷の中、 ギルモア邸のリビングそっくりの空間にグレートが入ってきたのだ。

「 え ・・・  スイッチ オン! 

003はその能力をフル・オープンにした。

 

「 やあやあ ・・・ これはお待たせしましたな。 」

スキン・ヘッドの英国紳士が 悠々と入ってきた。

「 ・・・ 待っていたわ ずっと ・・・ 」

ソファからブルネットの女性がたちあがり グレートに駆け寄った。

「 おやおや。  お嬢さん? お人違いではありませんか。 」

「 !?  なにを言っているの?  私よ! 忘れたの ・・・!? 」

「 はて。 このようなおいぼれになんの御用ですかな。 」

「 ・・・ そう よね・・・  そうだったわ・・・

 大スターさんに こんな女が声をかけてはいけないのよね ・・・ ごめんなさい・・・

 もう ・・・ 私のことは忘れてください ・・・  」

女性は 両手で顔を覆い、そのまま部屋を出ようとした。

「 待ちなさい。  いや ・・・ 待ってくれ お願いです。 」

「 ―  え ? 

「 忘れてなんかいないよ。  いや、俺の方から頼む ・・・ 

 どうか ・・・ 俺のことは忘れてくれ。 こんな卑怯なヤツのことなど、捨ててくれ。 」

「 ・・・ な なにを・・・ 」

「 そして アイツと幸せになるんだ。  ・・・ ローザを頼む。   ソフィ。 」

「 !!!! 」

突然 ドアが開いた。   今度は派手な美女が足音も荒く入ってくる。

「 ― ちょっと!?  グレート。 リハーサルに遅れるってどういうこと!? 」

「 ・・・ や  やあ オリビア ・・・ ご機嫌はいかがかな。 」

「 ふん! なに寝ぼけたこと 言っているの!

 アンタが来ないから この私が! 待ちぼうけを食ったのよ? こんなことって許せないわ! 」

「 あ ・・・ それは申し訳ない ・・・

 しかしベテラン女優のそなたなら  『 ロミ ジュリ 』 など お茶の子 ・・・ 」

「 ベテラン ・・・・? この私が トシ取ってる、っていいたいわけ?? 」

「 あいや〜〜 とんでもない! キャリアたっぷりの大女優、と賞賛しただけですぞ、レディ。 」

グレートは慇懃な態度で丁寧に会釈をする。

「 ふ ふん・・・!  さすが口先は達者ね。 」

「 いえいえ ・・・ おう なんならここでリハーサルをしましょうぞ?  愛しのジュリエット?

 ちょうど見物もいることですし。 」

グレートは窓の張り付いているフランソワーズへ ばちん♪ とウィンクを送った

「 おおい ・・・ そこの < ピーピング・ガール>?  入っておいで 」

「 え!? 」

窓の外で フランソワーズはびっくり仰天、それでもそそくさと屋敷の中に駆け込んだ。

 

「 やあやあ マドモアゼル・・・ ご機嫌はいかがかな。 」

「 ・・・ グレート・・・!  あなた、来てくれたのね! 」

「 当たり前さ。 ご婦人にハッパをかけられたのに出撃しなければ紳士の名が廃るワ。

 ふふん ・・・ それにこの化けモノ屋敷はなかなか興味深いのでな。 」

「 あ!? そ そういえば ・・・ さっきのヒトたちは・・? 」

「 ふん?  ああ ・・・ 退場したな。 」

「 え?? い いつ?? 」

「 マドモアゼル? 落ち着きたまえ。 そなたもここのカラクリには気づいておるであろう? 」

「 ・・・・ ええ。  これは ・・・ まやかし よね。 」

「 左様、 ここは まあ・・・妖精の館 だな。 」

「 よ 妖精の館 ?? 」

「 うむ。  ヒトの秘密、こころの奥底に隠してあるものを暴きたてたいイタズラ妖精さ。 

 アイツらは手の込んだ まやかしの世界 を作って人々を誘い込む。

 そうしてからなんとかして囚われ人の本心を暴こうとする。 」

「 まあ ・・・ 本当に・・? 」

「 あはは・・・ これは 昔からの言い伝さ。 一種の幻想文学に近いな。

  ま いずれにせよ、妖精ってやつはちょくちょくこんなイタズラをするんだ。 」

「 ・・・ グレート ・・・わかっていたの?  さっき ・・・ その ・・・ あの女性・・・ 」

「 はっはっは・・・ 我輩にこんな茶番が通じるとおもっているのかね?

 人生は常に劇場 ― 過ぎ去った日々への郷愁などとっくに明日の演技へのコヤシにしているさ。 」

「 さ〜すが〜〜 名優ね! 」

「 はっはっは・・・ こればかりはトシの功 かもしれんが。 」

「 またァ そんなこと。  でも ・・・ ここはBGとはどうも違うように思えるのよ。 」

「 ああ。 多分 無関係だろよ。  ヤツらだったらこんなまだるっこいことはしないな。

 情報では人々が消息を絶ったというが、<拉致> とは少々違うと思う。 」

「 そうよ ねえ ・・ あら?  誰か来るわ。 」

 

  どたどたどた ・・・!   ばんッ !!

 

すごい足音がして ― 次の瞬間  ジョーが飛び込んできた。

「 みんな!!  あの木戸は ! 」

「 ・・・ ジョー??? あなた どこに居たの? 」

「 おう ボーイ♪ おぬしの幻影はどうなったかな。 」

「 ああ!! フラン!!  無事か〜〜 よかった・・・!

 きみが庭から中に入るのが見えたんで 慌てて戻ってきたんだ。 」

「 まあ ジョー ・・・! 」

2人は思わず駆け寄ったが すぐに離れた。

「 えっと ・・・   皆! ここは   ・・・  あ  あれ??? 」

  ぐわ ・・・ ん ・・・・   部屋全体が揺れ始め ・・・ 

      サラ サラ サラ ・・・・   周囲が崩壊し光る砂となってゆく・・・

三人は中央に集まったが たった今まで過していた部屋はその姿を消してしまった。

フランソワーズは咄嗟に眼のスイッチをオンにした。

「 !  ・・・ なに??  ・・・ なにも <見えない> ?  」

「 な なんだって! 」

「 やっぱりな。  マドモアゼル、 ここははやり妖精の巣だったらしいな。

 ほれ ・・・ 出るぞ〜〜 ボーイも捕まれ! 」

「 あ ・・・ ありがとう! 」

 

  ― バサ ・・・!  羽音ともに大鷲が飛び立った。

 

「 う ・・・わ ・・・・! 」

「 ジョー ・・・!  ほら こっち捕まって。 」

「 う うん ・・・ ふぇ・・・ 」

「 ほい ちょいと上昇するからな〜〜 」

 

     ぐわ ・・・ ん ・・・   大鷲をおって砂塵が舞い上がる。

 

「 あ! ほら見て!  あの部屋が ・・・ ああ あの屋敷が崩れてゆくわ。 」

「 ふう ・・・ おい見ろよ、庭はなんともない!? 」

「 本当 ・・・  ねえ グレート、中庭の真ん中に降りてくれる? 」

「 ほい お安い御用〜〜 」

 

   バサ  バサ ・・・  大鷲は舞い降りるや、グレートが現れた。

 

「 なんてこった ・・・ ほう? アレはそのままなんだな。 」

「 え? 」

ジョーもフランソワーズも 彼の声に振り向いた。  ― そこには あの木戸があった。

  ・・・ 庭の片隅に 人待ち顔に揺れている古びた木戸 ・・・

「 この向こうには ―  理想の世界 ? 」

「 そうね、 その人が望む世界、というところかしら ・・・ 」

「 ・・・ そうだね。  さっきの屋敷はただの付け足しらしい。 」

「 ふん。  どっちにしろ物騒なモンだ。  ヒトの心の隙間に付込んでくる。 

 ボーイ、 マドモアゼル ・・・ 諸君らはあそこで何を見たのかな。 」

「 ・・・ え ・・・ あ  あの ・・・ わたし ・・・ 」

「 ぼく は ・・・  うん ・・ ぼく自身気がつかなかったこと、 かな。

 でも 見せてもらってよかった・・・って思ってる。 」

「 ・・・ジョー ・・・  わたしも よ。 」

「 なるほど な。  ふん やはり妖精の巣、か。 」

「 グレート ・・・ 」

「 木戸 があったな。  あの向こうへは 」

「 わたしは   行かない。

 これが もし妖精の仕業なら  ありがとう、 って言うわ。

 ・・・ わたし自身の気持ちを見せてくれて   ・・・ って・・・ 」

フランソワーズの頬がちょっと赤い。

「  君も? 

「 … ジョーも? 」

  うん   ぼくは。   ぼくは ―  を大切に生きてゆく うん、  生きてゆきたい 

   ―  き  きみ ! 」

「 ジョー  ・・・! 」

「 さあ〜〜〜〜 帰ろう 帰ろう 〜〜〜 !! 」

 

 

 

 

  ―  岬の屋敷の リビング にて。

「 で。 そのままにして帰ってきたってのか?? 」

「 ・・・ うん ・・・ 」

「 そうなの。  ・・・ あの木戸の先へ 木戸を開けて行ってしまいたい・・・って思う気持ち、

 わたし ・・・ 否定できなかったわ。 

「 ・・・ 心が弱ったとき、 誰だって優しい思い出に逃避したいものさ。

 それを責めることんなんざ 誰にもできん。 我輩も魅惑を感じなかったといえばウソになる。 」

< 帰ってこない人々> は あの木戸を開けていった人々。

BGとは無関係だったけれど 疲れた心を持て余した人々が <選んだ道>なのかもしれない。

「 そうか。   ― この件は  削除  だな。 」

「 アルベルト ・・・ 」

「 ふふん。  そういうことさ。  ― さあ〜〜 おい、出かけよう!

 そして大人に美味いもの つくってもらって! たらふく喰おうぜ! 」

「 うふふふ ・・・ いいわね! 」

「 賛成 〜〜〜 !! 」

サイボーグ達は笑い声をあげ 街へと繰り出していった。

 

      お兄ちゃん ・・・? 

      今度 会えたら。 ちゃんとジョーのこと、紹介するね 

  

フランソワーズは こっそり呟いていた・・・

 

 

 

                  イラスト                  めぼうき





あの庭は 今でも街外れにありひっそりと魅惑の香りを放っている。

そしてその奥にもう一つ、朽ちかけた木戸がある。  

ちょっと懐かしい風情で 人待ち顔で揺れているのだ。

 

      さあ どうぞ  この先へ ・・・ お望みの世界があるかもしれません

 

      ― あなた。  木戸の先へ いらっしゃいますか?

 

 

 

*******************************     Fin.   *****************************

 

Last updated : 05,29,2012.                   back       /      index

 

 

*********  ひと言

途中で  お誕生日企画 が挟まったため、随分間延びしてしまいました。

このオハナシは 全て めぼうき様の美麗イラストよりの妄想です〜〜♪